森琴石(もりきんせき)1843~1921
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森琴石 調査情報

平成10年10月~現在まで、森家での調査などをご紹介します

■調査情報 平成19年(1月)

【1】

「田中芳男」は、天保9年、当時、南信州地域の文化経済の中心地として繁栄していた長野県飯田城下で生まれた。医師である父からは、国内外の多くの知識教養を授かり、伊那谷の豊かな動植物に親しみ、南信の小京都とも称された飯田の文化的な風土の影響を受けて育った。安政3年、尾張の伊藤圭介の門に入り、本草学などを学ぶ。それらの諸環境が、後に、日本の博物館の父と称され、日本での初めての多数の試みを成すなど、生涯驚異的な事績を残す土壌となった 注1

慶応3年(1867)、パリ万国博覧会において「田中芳男」は、出品物の輸送と展示を任され、その功績に対し、皇帝ナポレオン三世やフランス殖産協会からメダルを贈られた。パリ滞在中に見聞した「ジャルダン・デ・プラント 注2」という施設が、後に新政府のもと「町田久成 注3」と共に、日本での数々の博物館建設に至る 注4 推進原動力となった。

農・林・水産・園芸・畜産など、全てにわたる情報を提供する場が必要だとの信念を持つ「田中芳男」は、知識の発達を促し且つ実益を伴う農業博物館建設に着手、開館にこぎつけた。明治14年には初代農務局長に抜擢され、内国勧業博覧会や水産博覧会の幹事や審査長を務め、殖産興業に尽力した。

自然界の産物を正確に記録する事を重んじた「田中芳男」は、江戸時代の博物図譜を収集すると共に、収集した標本の正確な博物画を数多く書かせ、博物図鑑を作成した 注5。明治5年、学制が発布され、近代学校制度が発足した。西洋から移植されたばかりの動植物学を教えるという画期的な試みがなされ、工夫された図画・図表を用い、一目でわかるような教材 「-博物掛図-」 が作られた 注6。明治6年から11年にかけて10枚の掛図が文部省から発行され、民間からも多数の「博物図教授法」が出版された。

文部省発行・響泉堂刻による、田中芳男選・久保弘道校・加藤竹斎画「動物第二:鳥類一覧 (明治8年9月) 」及び、田中芳男選・久保弘道校・服部雪斎画「動物第三:爬虫魚類一覧 (明治9年1月) 」とういう、掛図を2分の1弱の大きさに縮図した銅版の印刷物の存在が判明した 注7。どのような使用目的で縮刷版が作成されたか、詳細は不明である。

「田中芳男」は、明治元年9月、小松帯刀・後藤象二郎らの建言により、開成所内の理科学校を「大阪舎密局 」に移し、その御用掛を命じられた大坂での任務中 注8、多数の大坂の人士と交わった。

「田中芳男」は、鉱物や温泉にも多大な興味を示し、森琴石が生まれた兵庫県の「有馬温泉」に関する書物を編著している。森琴石実父「梶木源次郎(源治郎)」が、有馬での数々の業績を称えた「顕彰石碑碑文」の撰文者でもある。森琴石や周辺の人物と所縁の深い「佐野常民」や「花房義質」とは親友の間柄であった 注9

「田中芳男」の弟「田中義廉」は、教育者として多数の教科書などの著編纂や校閲をした。明治12年に刊行された、安田敬斎著・田中義廉閲・響泉堂刻の、銅版小型本「記事論説文例」は、広く世間に受け入れられ、明治期の作文書としてひとつのスタイルを築き上げた。以後同じ形式の模倣版が大量に出回ったという。「田中義廉」が関わった書物は、大阪で出版されたものが多い。注10

森琴石は、国内の陶器生産地で絵付け指導などをしており、殖産興業の一端を担っていた 注11。「陶器製造所」が描かれた森琴石の下絵が残る。森琴石周辺には陶器に関係した人物の存在が見られる 注12

長野県下伊那郡智里村の、国学者「熊谷直一」氏は、明治45年5月17日、、前年に依頼していた「神坂越保存会」への寄付画を引き取りに、森琴石の自宅を訪問している 注13。「熊谷直一」は、冨岡鉄斎とも交流がある。

 
 
上記部分及び、以下注1~注6については

飯田市美術博物館 ~日本の博物館の父 田中芳男展~ 図録

「日本の博物館の父 田中芳男」(長野県飯田市美術博物館編集発行・平成11年9月)より適宜抜粋引用させて頂きました。図録ご提供者=槇村洋介氏(飯田市美術博物館)
注1
  田中芳男=略年表・日本で最初に手がけた事柄・・・などは、雅友・知友「田中芳男」をご覧ください。
 
注2
  ジャルダン・デ・プラント=パリにあり、自然史博物館・動物園・植物園を含んだ巨大な施設。
 
注3
  町田久成=天保9年(1838)薩摩国日置郡石谷で生まれ、安政3年(1856)19歳で江戸に出て学び、慶応元年(1865)には、18人の留学生とともに渡英。帰国後は明治政府のもとで働き、明治3年、物産局が設けられたばかりの大学南校に勤めた。部下であった田中芳男と共に手を取り合い、その後10年間日本での博物館創設に向けて邁進していった。町田久成はロンドンの大英博物館を理想とした。
 
注4
  田中芳男、町田久成が創設した博物館

東京国立博物館/国立科学博物館/上野動物園/上野図書館(国立国会図書館支部上野図書館)
 
注5
  「田中芳男」書誌類=雅友・知友「田中芳男」をご覧ください
「田中芳男」による博物譜、図鑑、田中芳男の事績は、下記からご覧頂けます

東京大学附属図書館マルチメディア展示会
博物館・博覧会と好奇心-田中芳男男爵旧蔵資料から
 
注6、7
 
○文部省博物掛図=73cm×53cm=動物5枚+植物5枚=計10枚
★動物=「獣類一覧」・「鳥類一覧」・「爬虫魚類一覧」・「多節類一覧」・「柔軟多肢類一覧」=選:田中芳男/校:久保弘道・榊原芳野/画:服部雪斎・加藤竹齋・最上孝吉
★植物=選:小野 職 愨(もとよし)/画:服部雪斎
○文部省・響泉堂刻 縮刷版=35cmx23cm
「鳥類一覧 動物第二」・「爬虫魚類一覧 動物第三」共に、掛図と同じ構成、図柄。掛図に比し文字や画描が若干繊細に刻されている。共に枠外に「大坂響泉堂刻」とあり。
伊藤圭介・加藤竹斎・服部雪斎 略紹介
★伊藤圭介(1803-1901)=尾張の人。幕末から明治にかけて活躍した植物学者。蘭方医であると共にシーボルトに直接教えを受け、日本で初めてリンネの植物分類法と、学名の命名法を紹介した植物学者としても知られている。明治時代になり、日本初の理学博士となった。
★加藤竹斎=名督信、東京生まれ。加藤恒信の門。東京帝国大学に職を奉じ、植物を多く描いた。 小石川植物園創設時に伊藤圭介・賀来飛霞らの指導のもとに加藤竹斎は多数の日本の植物の観察とスケッチを行った。
★服部雪斎=1807年(文化4)生。博物画の名手。小石川植物園に勤め、明治元年博物局編「動物画」・伊藤圭介著「日本産物志前編」などの画を描く。服部雪斎画「朝顔三十六花選」は最も優れた朝顔図譜と言われる。福山藩あるいは岸和田藩の絵師だったともいう。
小石川植物園=元治元年(1684)、徳川綱吉の小石川にある別邸を薬草園として開園、植物園として日本最古の歴史を持つ植物園。吉宗の時代には、園内に診療所を設け、小石川養生所として使用された。明治10年(1877)、東京帝国大学開設に伴い、その付属植物園として教育・研究の場として使われた。
大阪舎密局(おおさか せいみきょく)=「舎密」は、オランダ語で科学を意味するChemieの当て字。
 大阪舎密局は、日本最初の理化学専門学校として1869(明治2)年に開校し、 教頭にはオランダ人の科学者ハラタマが迎えられ、西洋の近代化学・物理学を主とする講義と実験の授業が行なわれた。舎密局はその後名称を変更されるなどし、1872(明治5)年にその役目を終えたが、その流れは京都の第三高等学校から京都大学に受け継がれる。

舎蜜局、大坂開成所=「平成12年8月◆3番目」に 記述があります。
 
注8
  後藤象二郎・小松帯刀の建言=「京都大学百年史 資料編3、5-1」、「第5編 年表」より、明治元年6月、8月の項目をご覧ください。
 
注9
 
佐野常民・花房義質 当HPでの記述箇所
★佐野常民=「平成18年4月【2】■2、3番目 & 注3」・「平成18年5月【4】注3◆2番目 森琴石と慶応義塾
★花房義質=「平成16年7月■2番目」・関連資料:「千瓢賞餘:大阪府末尾 関新吾
 
注10
  田中義廉(たなか よしかど)=略伝及び著書類は、雅友・知友「田中義廉」をご覧ください
 

「記事論説文例」

*学校作文の参考書として編纂されたもの(作文文例集、作文指南書)。
*著者:安田敬斎/校閲:田中義廉/文栄堂(前川善兵衛)/明治12年
*明治の普通文を主体にし、尺牘系の文例と、文範系の文例の両方を一括りにしていることに特徴がある→国文学研究資料館報第56号(平成13年3月刊行):齋藤希史氏「新しい器」をご覧ください。

★「記事論説文例」については、「第27回サントリー学芸賞(芸術・文学部門)」受賞本『漢文脈の近代--清末=明治の文学圏』(齋藤希史著/名古屋大学出版会)で、取上げられています。→ 「論文など:平成17年11月平成17年2月」の項目に記述

『漢文脈の近代--清末=明治の文学圏※』(齋藤希史著・名古屋大学出版会)
全12章中、第10章の各項目で、「響泉堂・森琴石」の銅版本について触れる
第10章『記事論説文例』 ―銅版作文書の誕生―
1 「記事論説文例」
2 「銅版印刷」
3 「作文書の系譜」
4 「模倣と普及」
 
 

再刻 記事論説文例 壹」 (明治13年9月 再版)より

再刻 記事論説文例 壹

(右頁)=表紙裏 見返し
東京  田中義廉閲
大阪  安田敬斎著
叢僕  前川書屋

(17,2cmx11.8cm)

(左頁)=扉(上に薄紙がかぶされている)
上: 生前修末技身後傳浮名
真中:安田敬斎の肖像画
右: 明治巳卯春四月
左: 安田敬齋題像後
下: 花の図柄の下方中ほどに「響泉堂刻」とあり      


田中義廉  題字 本文
田中義廉  題字 本文
枠=森琴石 左:本文 第一頁目  右:目次 最終頁
 
注11
 

★常滑(とこなめ)&瞿応紹(ク オウショウ)=瞿子冶(ク  シヤ)=「平成14年11月
★布志名(ふじな)=「平成14年11月」・「平成15年10月」・「平成18年4月【2】注5
★砥部(とべ)=「平成16年11月同12月」・「平成17年3月」・関連資料「砥部焼きと森琴石
★美濃(みの)=「平成14年9月」・「平成15年7月同8月」・「平成16年12月 注1」・関連資料「砥部焼きと森琴石

 
注12
 

★清風与平=「平成15年7月」・「平成18年6月【1】注1◆」 
★門人紹介-兵庫県:「田川春荘」=温故焼→関連資料:【田川春荘画の「孔子像」と地域社会
★藤田台厳=略伝「成富椿屋」◆中ほどに「藤田苔厳」記述。係累「久米邦武」は、有田焼きの振興に大変尽力していた。
★森琴石の交流者「久保田米遷(略伝)」は、明治39年「納富介次郎」が私費を投じて設立した「図案調製所」のメンバー。納富介次郎=森琴石係累「武富圯南」の門下「柴田花守」の次男。
★門下「近藤翠石」は、泉州「水間焼」作家との関係がある(未記述)。   

 
注13
 

森琴石日記より

明治四十五年五月十七日 晴
○早朝、長野県下伊那郡智里村・熊谷直一罷越シ、神坂越保存会寄附画、
 昨年依頼之分揮毫依頼、態々罷越ス   =わざわざお越し下さったという意

★「熊谷直一」などについては、後月「解説・寄稿」にてご紹介の予定です

 
【2】

森琴石は信州方面への足跡を多く残しており、森琴石著・響泉堂刻の掛図形式の地図「新刻大日本国図  附朝鮮(明治10年)」には、三府(東京・京都・大阪)の他に、長野市の地図が描かれている 注1

長野県上田市にある、上田市立図書館・特殊コレクション「花月文庫」には、森琴石著出版などによる「南画独学揮毫自在」・「題画詩集」が所蔵されている 。花月文庫は、上田出身の銀行家「-第十九銀行の最後の頭取-」として活躍した「飯島保作」が収集した一万点にものぼる図書のコレクションである。「飯島保作」は、「飯島花月」の名で江戸庶民文学の愛好家として知られた文化人でもある。

森琴石が精密に写した「鳥類・虫類・植物」の下絵や画稿と思われるものが遺されている 注2

森琴石の周辺には「岡 不崩」や「前田吉彦」、「牧野富太郎」を支援した「池長 猛 」、門下には「珍花図譜」を著した「山名友石」など、植物や昆虫類の博物図に長けた人物の存在がある 注3。森琴石は、明治28年11月上旬、東京で「船津伝次平 注4。」を訪問し、船津氏所蔵の「高士図」を写している。

 
注1
 

「新刻大日本国図  附朝鮮」
 (全体=65cmx58.5cm 地図部分=46cmx51cm)

新刻大日本国図  附朝鮮

奥附

明治十年三月十五日翻刻御届
三月二十五日出版
原図       森 琴 石 著
出版人  長野書物師 西澤喜太郎
江嶋伊三郎
(・・住所は省略・・)

☆当HP記述箇所=「平成16年 3月■3番目 注3


「南画独学揮毫自在」=「平成18年12月」 など
「題画詩集」=「平成18年11月」  など

*上記書誌,当HPでの記述=画面上部にある「グーグル検索、森琴石.com」 から調べる事が出来ます。

 
注2
 

森琴石「鳥類など写生帖」 より
( 27.5cmx39cm 枚数多数あり)

森琴石「鳥類など写生帖」 鳥類など写生帖
↑      →   →  拡大  四月末寫 目ハ大也フチ黒・・・
 
注3
 
★岡不崩(おか ふほう)=「平成16年9月」・「書簡:岡不崩への書簡
★前田吉彦(まえだ よしひこ)=「平成18年7月」・「雅友・知友:前田吉彦
★池長猛(いけなが はじめ)=「平成17年7月■末尾、注6」・「平成18年2月【1】■3番目 注3
★山名友石(やまな ゆうせき)=「平成13年8月■1番目注1」・「平成13年11月」・「平成16年9月■1番目 注1◆参考の場所」・「門人:愛媛県<山名友石>」
★船津傳次平(船津伝次平/ふなつ でんじべえ)
群馬県沼田城近郊富士見村の農家の生まれ。農事改良や農業経営に創意工夫をこらし、赤城山の植林など、地域に多大な貢献をした。後に東京駒場農場の教官となりその功績が認められ、駒場農学校教師、農商務省巡回教師となり、全国を巡って農事改良に努め、明治の三老農の一人といわれた。明治31(1898)年、66歳歿。

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